ぺーぺーぷーぷーな日々

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抜き書き〜宮城谷昌光 三国志 第八巻

抜き書き第八巻。
この巻で曹操劉備も世を去る。

(追記。第七巻の抜書エントリーが抜けていることに気が付きました。)

劉備

曹操軍とは戦うが、曹操とは戦わない。劉備の進退にはそういう意思があるとしかおもわれない。劉備の謎のひとつである。

宮城谷昌光 三国志 第八巻 「霖雨」 42p)


その謎については、陳舜臣さんの推理がおもしろいと思うのだけど。

癸巳の日、劉備は〓んだ。六十三歳であった。

かれは前漢の高祖・劉邦を模倣しつづけたといってよい。ただし敵視した曹操項羽のように単純ではなかった。端的にいえば、劉備の一生には創意も工夫もなかった。ただし、それをつらぬいたことで、凡庸さをも突き破ったのである。が、曹操の有為に対して劉備の無為は、秘めた徳というべき玄徳に達したか、どうか。

宮城谷昌光 三国志 第八巻 「劉備」 300p)


宮城谷さんの劉備に対する考察はおもしろかった。

読書

孫権曹操におとらぬ読書家である。人の上に立つ者は、師承というものを得られなくなる。しかしながら、群臣と大衆を善導するために朝から夕まで考えつづけても益はない。師のいない者は、読書するしかないのである。

宮城谷昌光 三国志 第八巻 「関羽」 87p)

読書家どうしの話は、それですむ。

宮城谷昌光 三国志 第八巻 「報復」 228p)


無駄なディベートなど必要ない。

関羽

関羽は孤立無援となって死んだ。それはたしかであるが、じつはそれは関羽の志ではなく、劉備の志の体現ではなかったのか。関羽は『春秋左氏伝』を暗誦することができたことでもわかるように、伝統と常識を疎かにする型の武人ではなく、かれが樹てようとしていたのは過去から学んだ正義である。そこには独尊はない。独尊の思想をもっていたのは、劉備である。それを志というのであれば、その志はもっとも現実から遠い、とわかっていたのは関羽であろう。しかしながら、関羽は、その志を捨てたほうが生きやすくなる、とは一言もいわなかった。それゆえ関羽劉備も、むずかしい生き方をつづけた。劉備の思想に変化が生じたのは、諸葛亮と遭ってからである。やがて、益州を得て、実現することがむずかしい志を捨てたがゆえに、漢中王となった。ながく劉備とともに歩き、もっとも深く劉備を理解していた関羽は、そのことを惜しんだ。
ーー劉備の志とは、そういうものではなかった。
もっと超絶したものであった、と関羽はいいたかったであろう。それを天下に知らしめるために、関羽はひとりで魏と戦い、呉と戦った。それはすなわち劉備への敬愛の表現であった。

宮城谷昌光 三国志 第八巻 「曹操」 148p)


劉備関羽という関係も不思議ではある。主従かとも言い切れず、兄弟ともちょっと違う。
対等な同盟者とでもいうべきか。

曹操

「天下はなおいまだ安定していないので、古に遵うには早い。葬儀が畢われば、皆、喪に服することをやめよ。駐屯地にいる将兵は、そこを離れてはならぬ。有司はそれぞれ職につとめよ。時服(時節の衣服)をもって斂をおこない、金玉珍宝を棺に蔵めてはならぬ」

宮城谷昌光 三国志 第八巻 「曹操」 150p)


言わずと知れた、曹操の遺言。

曹操の懿業については『魏書』がもっとも要領よくまとめている。その一部に、こうある。
「軍を御すること三十余年、その間、手から書物を離さず、昼は武事の策を講じ、夜は経書とその伝に思いをめぐらせた。高所に登るとかならず詩を作り、新しい詩ができると、これに管弦をつけたので、みな楽章となった」

宮城谷昌光 三国志 第八巻 「曹操」 151p)

さらに『魏書』はいう。
曹操はつねづね倹約をおこない、華麗を好まなかった。後宮の衣服には錦繍をゆるさず、侍御の者の履も一色にさせた。帷帳と屏風が壊れれば補修させ、茵蓐(しとね)は温かければよく、縁飾りをつけさせなかった。城を攻め邑を抜いたとき、美麗の物を得ると、それらをすべて功ある者に下賜した。その労が勲賞にふさわしい者には、千金も吝しまなかったが、功のない者には分毫さえも与えなかった。四方からの献上物は、群臣とともにわけあった」

宮城谷昌光 三国志 第八巻 「曹操」 153p)

曹丕

そういう矛盾の多さによって後漢王朝にすさまじい亀裂がはしり、おのずと倒壊していったことを、曹丕はおのれの目でみていたはずであるのに、おなじあやまちを犯している自分に気づかないのは、曹丕の倫理的な昧さであろう。曹操がなかなか太子を立てなかったわけは、ひとつやふたつではなかったはずである。

宮城谷昌光 三国志 第八巻 「禅譲」 197p)

その点、曹丕には謙恕が不足していた。恐れるという感覚をもたぬ者は、じつは真の勇気をもたぬ者であり、工夫を知らぬ不用心さのあま生涯を終える。人としては、こくがない。

宮城谷昌光 三国志 第八巻 「禅譲」 200p)


宮城谷さんの曹丕に対する評価は辛い。




三国志 第八巻

三国志 第八巻

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